2019年02月07日
社会・生活
研究員(米国コロンビア大学留学中)
倉浪 弘樹
ニューヨーク市は「島」の街―。タイムズスクエアやセントラルパークなど、多くの観光スポットで有名なマンハッタンは「島」である。四方を海や川に囲まれたこの島に「上陸」するには、橋を渡ったりトンネルをくぐったり...。こうした橋・トンネルの数に限りがある一方で、ニューヨーク市の人口は1990年代以降、増加の一途をたどり、現在はおよそ860万人(都市圏人口は2000万人超)。限られた上陸ルートに人々が殺到するため、ビッグアップル(=ニューヨークの愛称)は慢性的な道路の渋滞や地下鉄の遅延に悩まされている。
だが街をよく見回してみると、島と島とを結ぶ手段は橋やトンネルだけではない。その一つがロープウエー。通勤の「足」として活躍するのだ。マンハッタンからイーストリバーの中央に位置するルーズベルト・アイランドまでの約1キロをわずか3分で運んでくれる。
このロープウエーは1976年の開通以降、自動車や地下鉄に代わる足として活躍している。ルーズベルト・アイランドには多くの市民や駐在員が住んでおり、このロープウエーの利用者は年250万人を超えるという。料金は片道2.75ドル(約300円)と地下鉄と同額。地下鉄の定期券でも搭乗できる。
このほか最近注目を集めているのがフェリーだ。元々、マンハッタン西側のハドソンリバーや南側のニューヨーク湾では、ニュージャージーやスタッテン・アイランド行きのフェリーが頻繫に運航されている。それに加えて2017年5月、イーストリバーにも「NYCフェリー」が登場した。マンハッタンとブルックリンやクイーンズ、ブロンクスなどの各区を6つのルートで結ぶ。チケットは片道2.75ドルで地下鉄と同額。乗降場は21カ所もあり、利便性に優れている。
このフェリーは安くて便利なだけではない。「通勤困難者」を救う足としても期待されているのだ。実は2019年4月からマンハッタン~ブルックリン間の地下鉄「Lライン」の一部区間が運休予定。2012年に米国を襲ったハリケーン「サンディー」によってトンネルが傷んでしまい、15カ月に及ぶ大規模な補修工事が実施されるからだ。Lラインの利用者は週40万人に上るというから、代替手段を確保しなければならない。
そこでトンネル真上のイーストリバーを往来するフェリーに、白羽の矢が立ったというわけだ。地下鉄・フェリーを運営するニューヨーク州都市交通局(MTA)は1時間当たり2000人の輸送が可能と試算。Lライン運休の間、フェリーの出航数を増やし、混雑解消の切り札として整備を始めた。※
※MTAは2019年1月3日にLラインの運休を中止すると発表し、負担の少ない新たな計画を策定中。
マンハッタン「島」は多様な乗り物に支えられながら、巨大都市の機能を維持している。陸だけでなく空や海も、時代遅れのようなものでも何でも、使えるものは使う。ニューヨーカーのパワーには圧倒されるばかりだ。
(写真)筆者
倉浪 弘樹